「ICOで発行されるデジタル・トークンは連邦証券法の規制に準じる有価証券だ」というのは、SECが昨年7月から表明してきた見解だが、案外この事実を知る人は少ない。
今年の11月にはSECは2つのトークン発行体に対して、民事制裁金の支払いなどを条件に和解に応じたが、SECが噛み付いた2社の共通点は「SECの登録を受けずにトークンを発行し資金調達をしてしまった」という点だ。2社は、SECの登録を受けないまま、仮想ネットワーク上で利用可能なデジタル・トークンを発行し、ビットコインやイーサリアムなどの仮想通貨によって払い込まれる資金を調達していた。簡単に経緯を見ておこう。
■パラゴン事件
一つは、パラゴン社によるデジタル・トークンPRG発行事件だ。パラゴン社は、大麻の製造・販売過程においてブロックチェーン技術を導入することで大麻の合法化を目指すことを目的としていた。パラゴン社がトークン発行によって資金を集め、ホワイト・ペーパーに示した様々なプロジェクトを実施し、「エコシステム」を構築することにそれらの資金を充てられるとしていた点は注目に値する。同社のホワイト・ペーパーでは、調達資金の「主要部分」は大麻に関連したビジネスを行う人々が共同で使用できるオフィス・スペースである「パラゴン・スペース」を設置するための不動産購入に充てられると説明されていた。そして、そのオフィス・スペースは現在も稼動している。結果的に、パラゴン社は、トークン販売を通じ8,000人以上の投資家から1,200万ドル以上相当のビットコイン、イーサ、ライトコイン等のデジタル資産を集めた。しかし、SECの登録を受けないままそれを行っていたことが懸念視されてしまった。
■エアフォックス事件
二つ目の事件は、エアフォックスによるエアトークンと呼ばれるトークン発行事件だ。エアフォックスは、端末上で広告を見た利用者に対し、無料または割引でデータ通信を利用できるようにするソリューションを提供する事業を、携帯電話事業者向けに行っている。「エアフォックス・ワイヤレス」と呼ばれるこの事業は、現在も提供されている。 同社はすでにエアトークンのICOを実施し、ホワイト・ペーパー等に「将来は自社のアプリ以外でもエアトークンを利用でき、携帯電話会社のデータ通信以外のサービス購入にも充てることが可能になる」などと記していた。エアフォックスは、ICOにあたり「エアトークンの購入とは、データ通信と交換可能なユーティリティの購入だから、有価証券の購入にはあたらない」と主張していたが、ICOの際にはこれらの条件を有する機能は存在しなかった。ICOの際、エアフォックスは2,500人以上の投資家に対し10.6億エアトークンを販売し、1,500万ドル相当の資金調達に成功した。これまたパラゴン社と同様に、SECの登録を行っていなかった。
■SECがトークン発行体側に対して望むこと
さて、SECがこの2社に対して「以下の条件をクリアしたら事業を続けて良い」と示した和解条項は次の4つだ。
①トークンの有価証券登録を受けるための登録届出書を提出せよ
②トークン購入者に対して資金返還請求フォームを配布し、返還請求を受け付けよ
③1934年証券取引所法で求められる継続情報開示を少なくとも1年以上行うべし
④25万ドルの民事制裁金を支払え
読んでピンと来た人もいるだろうが、和解と言う名の、明らかに「命令」と捉えても良い厳しい措置といえる。これを読むに、SECが発行体側に望む姿勢は「有価証券登録」と「情報開示」だろう。端的に言うと「透明性」ということか。
ただ、2社とも「詐欺ではない」と判断されたことからも分かるように、発行体側にしてみれば詐欺の意図はなく資金集めをしたのであり、むしろ「どうしたら最初から合法的にトークンを発行できるの?」「SECの深い意図を最初から把握できていれば良かったのに」と、悩ましい気持ちになることだろう。この点、SEC側も察しているのか、SECの企業金融部長William Hinman氏は先月、「今後ICOを行う際に必要となるガイダンスを『理解しやすい言葉』で作成し、公開したい」と発言している。
つまり、SECはトークン発行行為そのものをネガティブに見ているのではなく、むしろ「仮想通貨の繁栄」と「資金提供をする人達の安心」という2本柱を強靭に両立させるファイナンスシステムを広めたいからこそ、「理解しやすい言葉で作成し、公表したい」と公言してみせたのだろう。よって、発行体側としてはSECの厳しさに萎縮するのではなく、公表を待つ姿勢を保ちながらも「何を以ってSECは有価証券か否かを判断するのか?」を能動的に探ってみるべきではないだろうか?
その際にカギとなるのが「Howey基準」というテストなのだが・・・この話はまた次回にお送りしたい。
◇中国による一帯一路に対する抵抗の声 〜パキスタンにおける反発と抵抗〜
11月23日、パキスタン南部の都市カラチにある中国領事館を武装したグループが襲撃し、4人が死亡した。武装グループは領事館内に入って中国人職員を標的にしていたとみられるが、領事館を警備する警察官に銃撃され、同メンバー3人が亡くなった。事件後、同国の過激組織「バルチスタン解放軍(BLA)」が犯行声明を出し、「中国はパキスタンの重要な資源を搾取し続けており、それを止めない限り今後とも攻撃を続ける」と警告した。
BLAによる中国権益を狙った事件は今回が初めてではない。BLAは2017年5月、中国が43年の租借権を得たバルチスタン州南部のグワダル港で作業員10人を殺害し、また2018年8月には中国人が乗るバスを襲撃し、数人を負傷させるなど、近年繰り返し同様の事件を起こしている。BLAとはどんな組織なのか。なぜ中国権益を標的とするのか。
まず BLAについて簡単に説明したい。BLAはイランと国境を接する南西部バルチスタン州を拠点とし、パキスタンからの分離独立を標榜する過激組織である。設立は2004年で、主に現地のバルチ人で構成され、それ以降パキスタン政府関係者や軍・警察を狙った武装闘争を繰り広げている。2008年には一時パキスタン政府との間で停戦が成立したが、数ヶ月後にそれを破棄し、今日まで対立が続いている。
バルチスタンは、パキスタン国内でも特に貧困や失業が深刻で、識字率も国内平均よりかなり低い地域だ。今日でもパキスタン政府による支援は乏しく、忘れ去られた地域ともいわれる。また、バルチスタンは石炭や天然ガス、鉄鉱石など資源が非常に豊富な地域であるにも関わらず、その恩恵が現地の人々に還元されることは殆どない。そういった資源は中央政府が握り、経済発展のため外国企業との売買取引などで使用される。特に近年では、中国による一帯一路構想の1つである「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」によって2カ国間の経済的結び付きが強くなっており、中国の進出が際立っている。グアダル港の租借権を中国が43年得たのもその証左である。要はBLAからすると、上記の犯行声明と重複するが、中国は敵であるパキスタン政府と協力し、現地の厳しい環境を軽視し、自らの土地にある重要な資源をお金という武器で奪っていく搾取者という認識があるのだろう。
このように中国権益への攻撃が相次ぐことから、パキスタン軍は去年、CPECに携わる中国人の保護を目的に治安部隊1万5000人を投入することを決定した。しかし、負の連鎖が止まる気配は見えず、今後もBLAによる中国権益を狙う事件が発生することは想像に難くない。
最後に、もう1つ注視すべきは他の過激組織の動向である。周知のとおり、パキスタンで活動する過激組織は何もBLAだけではない。パキスタン・タリバン運動(TTP)やカシミール問題に関連するラシュカレトイバ(LeT),また近年ではイスラム過激組織イスラム国(IS)に忠誠を誓う組織が台頭するなど、多種多様なイスラム過激組織が活動している。カシミール問題に関連する一部のイスラム組織組織には、ISI(軍統合情報局)から多額の資金が流れているとされることから、中国に対する認識はBLAとは異なるかもしれないが、IS系組織は過去に中国人の拉致・殺害に関わったとする声明を出している。今後の動向を予測することは簡単ではないが、近年、“反一帯一路”的な声が過激組織を中心にパキスタン国内では高まっており、今後もそういった抵抗の声が暴力として現れ続けることが考えられる。
◇イベント情報 「TRUMP’S AMERICA」日本語翻訳版発売記念セミナー
■日時:2018年1月19日(土) 13:00-15:30
■場所:イベントスペースEBIS303 カンファレンスルームB/C
■内容:監修者饗庭直道によるトランプ大統領のビジョン
その他ゲストによるセミナーも開催予定