隣国の保守主義者が危機に瀕している。ロウソク革命という「民意」を背景として現れたように見える文在寅大統領だが、実行される政策を見れば、朝鮮半島を自由主義から中国や北朝鮮といった「全体主義」に譲り渡しているだけではないか。こうした問題意識から、韓国においても保守派団体KCUが今年、形成された。今回のJ-CPACは、韓国の保守派の「生の声」に耳を傾けるという、貴重な機会でもあった。このセッションは、事後の参加者の声を聞いても、今回のJ-CPACにおけるハイライトのひとつだったかもしれない。
まず登壇したのは、韓国のキム・ソンドン議員である。キム議員は、朝鮮半島が地球上に残っている唯一の分断国家であるという事実に、改めて注意を喚起した。冷戦が1989年に終結し記憶から遠ざかりつつあるなか、朝鮮半島はいまだ東西対立の姿のままなのである。そして韓国は、国内でも隣国とも、保守勢力と左派勢力との対立に直面している国家なのだ。その韓国の保守勢力はいま、文在寅政権の成立によって厳しい状況に立たされている。保守勢力が力を合わせて自由主義陣営の勝利のための連合すべき時が来ている、とキム議員は呼びかけた。
この具体的状況を、KCU代表のチェ・ヨンジェ氏が指摘した。このチェ代表の講演は、我々日本の保守主義者にとっても刺激的かつ目新しいものだった。
チェ代表は、全体主義勢力に我々がいかに対抗するのかを、3つの目標として掲げた。すなわち、(1)ソウルで全体主義改革を行っている文在寅政権の打倒、(2)平壌で全体主義体制を率いる金正恩政権の打倒、(3)全体主義の「中心地」である習近平政権の打倒、である。なかでも文在寅政権は、朝鮮戦争休戦協定後の秩序を崩そうとしている。文政権は、地域秩序の根本を揺るがす「保守の敵」なのである。
では、こうした全体主義とどのように戦うのか。チェ代表は「3つの戦略」を示す。まず、人権問題を争点化し、脱北者の送還を行う中国、処刑・収容を行う北朝鮮の実体を、世間に知らしめる必要がある。たとえば、民間団体が基金を作り、北で処刑された妊産婦の像を作って中国大使館前に作るといった方法が具体例として挙げられた。第2に、北朝鮮に対する制裁の2年延長。北朝鮮と文在寅政権が経済協力を急ぐのは、経済体制がひっ迫しているからである、ここで、制裁の手を緩めてはならないとチェ代表は熱弁をふるった。そして第3に、2020年の韓国総選挙で文政権を追い詰めるため、韓国の自由民主主義勢力への自由主義陣営からの支援が必要なのである。
KCU代表、チェ・ヨンジェ氏
3人目として登壇したのは、ソウル市議会議員であるヨ・ミョン氏である。ヨ議員は、文在寅の「世界観」こそ問題であるにもかかわらず、いまや左派的世界観が韓国を席巻している現状を警告する。たとえば、ソウル市議会では110人のうち左派が102人を占め。保守派は6人に過ぎない。背景には、左側を好む脆弱な国民意識がある、とヨ議員は指摘した。
文政権は、こうした国民意識を背景に、北朝鮮との連邦制統一を目指している。つまり、自由同盟を断ち切ろうとしている。いま、安全保障や経済のパートナーである自由主義陣営との関係を再構築するため、文在寅的世界観を改める教育面での「保守運動」が必要だ、とヨ議員は述べた。
最後に登壇したのは。大韓弁護士会会長のキム・ピョンウ氏、韓国法曹界の代表的人物である。キム会長は、いま東アジアに求められるのは「行動する保守」である、という。韓国では、朴槿恵前大統領への見せしめ的とすら言える判決に代表されるように、法治の名の下で政治的弾圧が進んでいる。民主主義を生かすのか殺すのかの瀬戸際に、韓国は立たされているのだ。
実際に、朴槿恵前大統領は33年の懲役刑を言い渡されたが、そのような刑罰は通常、連続殺人犯でもない限り言い渡されることではない。まして、数百億ウォンの賄賂を受け取ったというが、判決文のなかに不正な資金を個人的に受け取ったという証拠を示すことができていない。こうした「見せしめ」は、韓国が共産主義と変わらない独裁国家に統制されつつあることを示している。自由と安全を守るための行動こそ、いま東アジアの保守主義者に求められることなのである。
「持続可能な開発目標(SDGs)」とは、2015年9月の国連総会で採択された、国連の開発目標である。世界全体の持続的な開発のため、17の「グローバル目標」と169の達成目標から構成される。
さて、なぜ保守主義を志向するJ-CPAC2018において、国連の開発目標を取り上げるのか。保守主義は、個別国家の主権を重視するという点で国連と折り合いが悪く、また各国国民の税金を途上国に「垂れ流す」がごとき国際援助とはどう考えても相性が良くない。だが、そのテーマを敢えて取り上げることにこそ、J-CPAC2018の意義がある。
各国の保守主義者の連帯を目指すJ-CPAC2018において、まず考えなければならないのは、「何者から我々を保守するか」ということだ。改めて言うまでもなく、我々の自由や安定を脅かし、現在の国際秩序を不安定化しているのは、中国でありロシアである。これらが、「一帯一路」などの戦略的政策を国際的に展開しているとき、保守主義者も連帯してこれらに対抗すべきであろう。これが、我々がSDGsを取り上げなければならない所以である。
この点について、松川るい参議院議員は的確にも、「力の政治が当面続く」国際政治の現状のなかで、我々のこととして、オーナーシップを持ってSDGsに取り組む必要を訴えた。SDGsは、企業や投資家による自発的な取り組みを促し、「先進国の税金を使って助けよう」ではない援助の在り方を模索する政策目標なのである。
こうした自発性を重視する概念であるからこそ、各国に「義務」や「制裁」が科されていない。この点をとらまえてSDGsの実効性を疑うのは誤りだ、とポポフスキー国連大学教授は指摘する。各国政府の無謀な行動を規律づけるのは、制裁などに裏付けられた「ハード・ロー」ではなく、認識や規範意識を収斂させるような「ソフト・ロー」だと教授は指摘した。
この点は、サム田淵国連欧州経済員会常務理事の発想とも重なる。日本が「一帯一路」へのカウンターとして打ち出したクオリティ・インフラストラクチャ(質の高いインフラ)という考えは、持続可能な開発という目標にぴったりと適合し、中国政府もこれに同調せざるを得ない状況を形成している。
すべての人について、レジリエントな生き方が可能になる未来を構想することも、保守主義に求められる役割である。SDGsは、「税金を集めて流す」方式の従来の援助からの転換を促し、企業や投資家の自律的判断が可能な、新たな開発目標なのである。
左(上):外務省での豊富な国際経験を活かし、SDGについて解説する松川るい参議院議員
中:「レーガンとサッチャーは私のヒーロー」と言い切るポポフスキー教授
右(下):国連でSDGsの策定にも携わったサム田渕教授