2018年9月25日(火)から10月1日(月)まで開催されていた国連総会一般討論において、ドナルド・トランプ大統領は2度目となる演説を行った。日本の国内メディアは、前年に「ロケットマン」呼ばわりした北朝鮮の金正恩委員長に対する姿勢の変化、あるいは自身の「成果」を強調する大統領への「失笑」ばかりが取り上げられたが、超大国の政治的指導者の発言について、このように揶揄するばかりというのは見識に欠ける。国連総会一般討論とは、加盟国代表が当該会期における問題提起とそれぞれの立場を明示するための制度であり、いわば、多国間で取り組むべき課題への認識と取り組みをアピールする機会だ。ここでは、次年度のトランプ政権の課題認識をくみ取っていこう。
さて、トランプ大統領の対外政策のロジックは、演説冒頭の次の一言に凝縮されている。
「私は、この会議場にいるあらゆる国家が、自国の慣習、信念、伝統について追求する権利を有することに敬意を表する。合衆国は、生活様式、労働、信仰について、指図する意志はない。そのかわりに我々が求めるのは、我々の主権を尊重してほしいということだ。」
重要なのは、個別国家がそれぞれの生活様式や伝統にのっとり主権を尊重しあうことだ、とトランプ大統領は述べる。たとえば中東情勢について、大統領は、サウジアラビアはじめとするアラブ諸国が、テロの資金源やネットワークの特定・対策への独自組織を立ち上げたことを念頭に、「自助」に取り組むことを称賛した。シリアやイエメンについても、「地域内」での関与と解決を求めている。アメリカ政府が断固たる姿勢を取るのは、アサド政権が化学兵器を配備した場合に限定される。大統領は言う。「究極的には、地域の人々がどのような未来を展望し、子供たちに残すかを決定するのは、地域諸国次第なのだ。」
イランに対する強硬な姿勢は、この文脈で正当化されていることを、見逃すべきではない。トランプ大統領は、「イランの指導部は、混沌、死、そして破壊をもたらしている。彼らは近隣諸国や国境線、諸国家の主権というものを尊重しない」として、まさに主権を蹂躙するイラン政府の対外政策を批判した。
このことは、イランとの核合意離脱が「政権の気まぐれ」などではないことを示している。イラン政府は実際に、革命防衛隊をシリアに派遣し、イエメンでは反政府勢力フーシ派を支援している。なにより、レバノン南部からイスラエルにかけて活動する過激派組織ヒズブッラーが革命防衛隊の一種の「出先機関」なのは周知の事実である。
したがって、大統領は核合意の拒否を次のように正当であると主張した。「イランとの核合意は、イラン指導層を後押しするだけだ。合意が形成されてからの数年間、イランの軍事予算はおよそ40%も増大した。独裁体制は、核搭載可能な兵器の開発、国内的抑圧の強化、テロリズムへの資金提供、そしてシリアとイエメンでの混沌と殺戮の資金へと、(核合意によって得られた)財源を利用している。」
北朝鮮に対する「軟化」は、この文脈に位置付けられる。つまり、他国へ向けたミサイル実験や威嚇のための核実験を行うことは、主権を毀損する。一方で、国内においてどのような政治体制を取ろうと――極言すれば残虐な支配を行おうと――それが国内問題である限りにおいて、「主権」の枠組みのもとでトランプ政権は尊重する。
これは、「ロケットマン」呼ばわりからの転換などといって、揶揄すべきことではない。トランプ政権には、「主権を第一とする」という明確なロジックが存在し、そのなかで対外政策が判断されているのである。冒頭の言葉を思い出してほしい。アメリカの主権を承認するなら、アメリカは相手の主権を尊重するのである。